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教授就任のご挨拶
この度、令和3年4月1日付けで、九州大学大学院医学研究院神経内科学教室の第5代教授を拝命しました磯部と申します。日本で最も古い神経内科学教室を、第4代教授の吉良潤一先生より引き継ぎ、責任の重さを日々感じています。
この場をお借りしまして、簡単に自己紹介を申し上げます。私は佐賀県立佐賀西高校を卒業し、1997年に九州大学医学部に入学しました。大学では、医学 部バドミントン部に所属し、一緒に入部した同級生10人と一緒に、毎週の練習の他、筋トレを行ったり、遠征や合宿に参加したりと楽しく過ごしました。私達 の学年は、診療に従事するために2年以上の臨床研修を必修とする制度(臨床研修必修化)が始まる直前の卒業生だったのですが、2003年に卒業してすぐに 九州大学の神経内科学教室に入局しました。この際も同期入局は10名と例年より多く、同期に恵まれ、充実した研修医生活を送ることができました。
自分がどのように進路を決めたかについて、少しご紹介します。私は幼稚園の頃から祖母と同居するようになり、人が老いるということを間近に感じ、老化や 変性といった今のところ避けられない事象と共に生きる人の力になりたい、という思いを抱くようになっていました。また、高校生の頃に見たテレビ番組で、頭 部外傷後の患者さんが脳低体温療法により意識を回復したというような紹介があり、脳の可塑性と奥深さに衝撃を受け、その頃から漠然と将来は脳の慢性疾患に 関わる医師になりたい、と思うようになっていました。そして、医学部に入学してすぐ、4月末から始まったアーリーエクスポージャーで、ありがたいご縁があ りました。アーリーエクスポージャーというのは、1年生では教養科目がほとんどの授業を占めますが、週に1日だけ医系キャンパスに通学することになってお り、1年生が各グループに分かれ、グループごとに毎週、診療科を割り当てられ、その科を見学する、というものでした。全部で4つ程の診療科を見学しました が、その中で、神経内科を回ることになりました。指導医の先生から、「これから1時間、割り当てた患者さんと話をしてくるように」と言われ、学生は一人ず つ患者さんを割り当てられました。私が担当することになったのは、60代くらいの対麻痺の患者さんでした。排泄もベッド上で行う必要があるようでした。医 学のことが全く分からない状態で、何をお話しすればいいのか分かりませんでしたが、その女性の患者さんがお話しされることを一生懸命お伺いした記憶があり ます。そして1時間が過ぎる頃、帰り際に、その女性が「あなたと話して元気になった。ありがとね。」と満面の笑みで仰いました。その瞬間、何か胸を打たれ たような感じがしました。その日まで、神経内科という科を認識していなかったものの、もともと脳に興味があったことと、生涯付き合っていく疾患を対象とす ることが多い神経内科に出会い、さらに患者さんにお礼を言って頂けたことから、将来はこの科に進むだろう、と思うに至りました。今となってはその患者さん や、出会う機会をくださった指導医の先生がどなたであったかも分かりませんが、お会いすることができれば、ご縁にお礼申し上げたいと思っています。
このように、人と人との出会いや縁によって、その後の人生に大きな影響が及ぶことは多々あると思います。今から医学を学んでいく学生や進路を決めていく 研修医、当科の教室員においては具体的にどの分野でどのように働いていくか、など、その決断のきっかけとなるような出会いや経験を積むことができる機会を 提供していきたいと思います。そして、そのような機会は早ければ早い程良いと私は思います。
これからの教室の運営にあたり、以下の3つを柱に取り組んでいきたいと思います。
まず第一に、神経難病の克服に向けた、基礎的・臨床的研究の充実です。患者さんとの出会いや、自分で立てた仮説に基づき、研究に邁進できる環境を作りま す。特に、多様な病態を有する多発性硬化症や、進行の仕方も様々である筋萎縮性側索硬化症など、多様な表現型の背景にある遺伝子やパスウェイに注目し、将 来の個別化医療の実践に繋がるようなビッグデータを生かした研究を展開していきたいと思います。
次に、地域医療と連携した大学病院での診療の在り方を整えていきたいと思います。神経難病が疑われる患者さん、地域の病院で診断が付かない患者さんを広 くご紹介頂き、精査を行って、今後の見通しを立て、福岡県や市の難病相談センターや難病ネットワークと連携しながら、地域全体で診療を行っていきたいと思 います。特に難病相談支援事業については、前教授の吉良潤一先生がご在任中新たに立ち上げられたものです。この4月から私が福岡県難病相談支援センターの 業務を副センター長として引き継いでいますが、異なるバックグラウンドを持つエキスパートが任務にあたられており、毎週の会議ではいつも勉強になります。 この素晴らしい仕組みをより広く医療従事者や患者さんに知ってもらえるよう、働きかけを行い、益々活用していきたいと思います。
最後に、学生教育、研修医教育、大学院教育、そして生涯教育の充実です。私自身海外留学経験が長かったこともあり、様々な指導者について学ぶことで、そ れぞれの研究の進め方や考え方など多く学ぶことができたことはとても良かったと思っています。それだけでなく、これまでの臨床研修で指導してくださった先 生方や研究室の先輩方など、各先生が何に重きを置いて研鑽を積まれてきたのか、等、沢山の先生方からそれぞれ多くのことを学ぶことができました。教育は、 何も学生が相手の際にのみ生じることではなく、日常の仕事の中でも、周りの先生方や一緒に仕事をしている方々に教えられ、そして、自ら教える、ということ が常に行われるような、教育と共にある教室にしていきたいと思います。そして、人の和を大切に、医局の先生方が、国内外を問わず、様々な研究者や医師と繋 がって、ご自身のネットワークを構築されるサポートを行って参ります。
私自身、全般的な神経診察、診療や自分が専門とする分野以外の研究についてもまだまだ道半ばで日々研鑽を積む必要がありますし、お互いに刺激を受けつつ、チームとして多方面に成長していきたいと思います。
これからも教室の更なる発展に向けて、臨床、研究、教育それぞれの分野で精一杯努力して参ります。
諸先生方、同門の先生方、今後ともご指導ご鞭撻の程、何卒宜しくお願い申し上げます。
研修医や学生の皆さん、是非、一緒に神経内科学を学び、研究し、これからの脳神経内科診療の未来を切り開きましょう。
令和3年8月24日
九州大学大学院医学研究院神経内科学分野(第5代)教授
磯部紀子(平成15年卒)