九州大学大学院医学研究院神経内科学教室

神経内科で行っている研究

現在九大神経内科で行っている研究テーマは下記のように多岐にわたっています。

A.脱髄性疾患

吉良、渡邉、中村、松下らは多発性硬化症(multiple sclerosis, MS)と視神経脊髄炎関連疾患(Neuromyelitis optica spectrum disorders、NMOSD)患者の大規模生体試料バンクのDNA、血清、髄液等の生体試料の収集を行い、日本人MS、NMOSD患者の臨床的特徴について報告した(Watanabe M, et al. Sci Rep, 2021)。松下、磯部らはNMOSDを対象とした全ゲノム関連解析によりKCNMA1(Potassium Calcium-Activated Channel Subfamily M Alpha 1)遺伝子が疾患重症度と関連があることを見出し、NMOSD患者の脊髄でKCNMA1の発現が低下することを病理学的に明らかにし報告した(Matsushita T, et al. Ann Clinic Trans Neurology, 2020)。また、林、磯部らは、MSの病態に関連するT細胞受容体(TCR)の特徴を明らかにするため、患者および健常者の末梢血中のTCR α/β/γ/δ鎖について次世代シークエンスを用いたレパトア解析を行い、MS群では、TRA、TRBの多様性が、健常者群に比べて有意に高く、HLA-DRB1*04:05保有者においてサイトメガロウイルスタンパクをターゲットとするTCRがMSにおいて頻度が高いことを明らかにした。このTCRを有するHLA-DRB1*04:05陽性MS患者では、有さない群と比べ、疾患重症度が軽症であった。特徴的なTCRとHLA-DRB1アリルの組み合わせが特定の疾患表現型に寄与していることを示した(Matsushita T, et al. Ann Clinic Trans Neurology, 2020)。中村、渡邉らは欧米人MSのリスク因子であるHLA-DRB1*15を有する人では抗JCV抗体保有率が低く、日本人MSのリスク因子であるDRB1*04を有する患者では抗JCV抗体保有率が高いことを発見し、日本人フィンゴリモド使用者でPML発症症例が多いことの一部を説明していると考えられた(Watanabe, M, et al. J Neuroinflamm, 2020)。

福元、中村、渡邉らは、MS患者の脳MRIの特徴について、HLA-DRB1*15:01保有者は非保有者と比較し全脳容積の萎縮が早いこと、HLA-DRB1*04:05保有者は脳病巣容積の蓄積が遅いことを見出し報告した(Fukumoto S, et al. J Neurol Sci, 2020)。また篠田らはMSにおいて、BRB-N等で評価される認知機能指数は皮質病巣数と逆相関することを明らかにし報告した(Shinoda K, et al. Sci Rep, 2020)。

吉良、磯部らは、「神経免疫疾患のエビデンスによる診断基準・重症度分類・ガイドラインの妥当性と患者QOLの検証研究班」の事業の一環として、第5回多発性硬化症・視神経脊髄炎全国臨床疫学調査を行った。一次、二次調査票集計結果に基づき、粗有病率は人口10万人あたり19.6人(MS 14.3人、NMOSD 5.3人)と推計され、前回調査時と比較してMSの発症年齢は高くなり、軽症化し、またMSでは喫煙率が高いことを明らかにした。解析結果について145th Annual Meeting of the American Neurological Associationにて発表した。

林田、眞﨑らはBaló病の層状脱髄性病変において、脱髄初期である辺縁部ではオリゴデンドログリアのアポトーシスが生じ、TMEM119、GLUT5陽性、P2RY12陰性ミクログリアが増加している一方、CD68陽性マクロファージは病変全体に存在するものの、泡沫細胞は病巣の内層に存在していることを見出した。オリゴデンドログリア変性と炎症性ミクログリア活性がマクロファージ浸潤に先行していることを明らかにし、報告した(Hayashida, S. et al. Brain Pathol 2020)。

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B.変性性神経疾患

山口、松瀬、眞﨑、雜賀、西村、田中らは、多系統萎縮症小脳型(MSA-C)モデルマウスとしてTet-Off システムを用い、ヒト変異α-synuclein をオリゴデンドログリア特異的に発現させるマウスを樹立した。8週齢からヒト変異α-synuclein を発現させたモデルマウスは、平均22週頃に運動失調や尾の麻痺などの症状を発症し、進行性の経過をたどること、また発症後にヒト変異α-synuclein の発現を再抑制したところ、症状の進行が停止し、改善することなどを見出した。また病理学的所見では、α-synuclein の沈着や脱髄を大脳、小脳、脳幹、脊髄などにみとめた。それに伴い、arginase-1陽性M2ミクログリアの顕著な浸潤やアストロサイトのコネキシン43/30の広汎な脱落を認めた。3週齢からヒト変異α-synuclein を発現させた場合は、非対称でfocal な病巣分布を示し、一次進行型多発性硬化症(PPMS)に類似した病態を呈していた。現在このマウスの表現型や病理学的特徴について解析中である。さらに、本マウスに対しCSF1R 阻害薬を投与し、その運動症状、病理学的変化について解析しており、病態進行や制御に関与するミクログリアのサブポピュレーション解析を行っている。また神経病理学教室との共同研究で、ヒトのMSA病理についても解析中であり、動物モデルとの相同性についても確認している。

また、松瀬、山﨑、グザリアイらは、MSA およびhSCD における患者末梢血単球の分類および機能解析をフローサイトメーターで行い、MSA 群において、Intermediate(CD14++CD16+)単球の割合がhSCD 群と比較して有意に減少していることを見出した。またその傾向は、MSAの罹病期間、UMSARSスコア、MRIでの脳幹・小脳萎縮と相関し、病初期のその傾向が顕著であることを報告した(Matsuse et al, J Neuroimmunol, 2020)。

アルツハイマー病(AD)の基礎的研究において、今村らは、脳のインスリンシグナリング障害とtoxic Α β42 conformer およびリン酸化タウ蛋白との関係をインスリン欠乏(streptozotocin 注射)もしくはインスリン抵抗性上昇(高フルクトース食飼育)させた3xTg-AD マウスで検討し、特にインスリン欠乏でtoxic turn Α β42 conformer 形成が促進され、さらに神経細胞内でリン酸化タウ蛋白と共凝集することを見出した(Imamura et al, Neurobiol Dis, 2020)。この知見はAD の新たな分子病態を提唱するものであり、今後の治療法開発に重要な発見である。また、高フルクトース食飼育では、脳のインスリン抵抗性は上昇するものの認知機能は改善するため、その機序の解析も進めている(Yanagihara et al, 投稿準備中)。一方、今村・浅井らは、グリア細胞由来のエキソゾームによる変性疾患病的蛋白の伝播に関する研究を継続中である。また、認知症マウスモデルにおけるエキソゾーム内microRNA(miRNA)に着目し、miRNA によるエピジェネティクスな認知症関連遺伝子の発現機構を解明することにより、治療薬開発を含めた臨床応用を目指している。

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C.運動ニューロン疾患(山﨑、小早川、白石、橋本、江)

白石・山﨑は、家族性筋萎縮性側索硬化症のモデルマウスである変異 SOD1(G93A)トランスジェニック(mSOD1-Tg)マウスにおける単球・マクロファージの病態形成への影響を検討している。本マウスでは生後12週ごろから後肢の脱力が出現するが、坐骨神経には神経症状発症以前、生後4週の時点で既に変異SOD1蛋白が蓄積し、マクロファージが浸潤していることを突き止めた。これらのマクロファージは神経保護的なM2フェノタイプを呈しており、変異SOD1蛋白を貪食していたことから、神経保護的に作用している可能性も示唆された。このマクロファージが病態に及ぼす影響を解析するため、mSOD1-Tgマウスにおいてマクロファージの遊走因子受容体である CCR2をノックアウトしたところ、末梢神経へのマクロファージの浸潤が抑制され、かつ疾患進行が促進された。坐骨神経への変異SOD1蛋白の蓄積は増幅され、前角神経細胞死も促進されていたことから、これらのマクロファージは変異SOD1蛋白のクリアランスに寄与し、神経保護的に働いている可能性が示唆された。現在論文投稿中 (Shiraishi et al., in revision)。

小早川らは、ニューロン間で電気シナプスを形成する Connexin 36がmSOD1-Tgマウスで疾患初期から減少することに着目し、電気シナプス喪失の意義とALSの治療標的としての可能性を検討している。また、小早川・橋本・山﨑らは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)医薬品等規制調和・評価研究事業の支援を受け(研究課題名「神経変性疾患の病期に着目した治療法開発および承認後適正使用を推進する新規評価法の確立」)、ALSに対する臨床試験の適格基準や評価項目として適用可能な新規分類法を策定することを目的とした臨床研究を行っている。

橋本らはmSOD1-Tgマウス末期に活性化アストログリアが発現しているCx30に着目し研究を行っている。Cx30欠損マウスはEAEの症状が軽減されることから、Cx30は中枢神経の炎症維持に重要な役割を担っていると考えられている。当科では従来よりALS における炎症性機序が重要な病態形成因子であることを報告しているが、その病態機序の一因としてギャップ結合を介したグリア炎症が寄与していることを示すための重要な研究と位置づけ、検討を行っている。現在、mSOD1-TgマウスにおけるCx30の組織学的、定量的な評価を行いつつ、Cx30欠損mSOD1-Tgマウスの行動解析を行っている。

江らは、Facial onset sensory and motor neuropathy(FOSMN)の全国疫学調査を行っている。本症は40歳代以降に顔面から始まる感覚障害、進行性の球麻痺・顔面麻痺、次いで四肢脱力・筋萎縮を呈する稀な疾患群で、当科経験症例の剖検例では、脳神経核に筋萎縮性側索硬化症類似の脳神経核ニューロン脱落およびALS患者でも見られる異常蛋白(TDP43)の蓄積を認めている。近年、国内外の学会などでの症例報告が相次いでいる。私達は本症の国内の有病率や臨床像を明らかにし、診断基準と治療指針の策定を目標としている。一次調査が終了し、国内の推定患者数は41.4例であった。現在、二次調査表の回収及び解析を行っており、本疾患の臨床像について検討していく。

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D.てんかん・発作性疾患

毎年50例程度の長時間ビデオ脳波モニタリング検査を施行し、てんかんと非てんかんの鑑別、難治性てんかん患者の手術適応の評価を行っています。毎週金曜日にてんかんカンファレンスを開いて症例検討を行っています。また、月1回脳神経外科、小児科、精神科神経科、検査部、リハビリ部神経心理士と合同のてんかんカンファレンスを行い、主に手術症例についての検討を行っています。令和2年度から本格的に定位的頭蓋内脳波(SEEG)の手法が導入され、これまでてんかん外科手術が難しいと考えられていた症例に対しても積極的にSEEG検査を行い、その適応を広げています。

重藤らは、新型コロナウイルス感染症によるてんかん診療に対する影響に関する国内多施設共同研究に参加し、情報収集を行いました(投稿準備中)。自己免疫性てんかん・辺縁系脳炎に関する国際多施設共同研究に参加し、被検者の募集を行っています。人文科学と共同で、言語処理に関して脳磁図を用いた研究を行っています。

向野らは、側頭葉てんかんに特徴的な記憶障害である、忘却促進現象に関連する因子を探索しており、福岡山王病院と協力して多数の側頭葉てんかん患者からデータを収集して解析した結果、海馬微細構造との関連性を見出し、国内・国際学会で発表し、現在投稿準備中です。

横山らは忘却促進現象には、睡眠依存性記憶固定化の障害が関与しているという仮説を立て、targeted memory reactivation(TMR)を用いて、これを検証しています。TMRは、睡眠中に関連する音や匂いを与える事によって、特定の記憶を強化する手法であり、健常者による予備実験を終えました。患者群を対象に実験を開始したところですが、被検者が時間外に来院して長時間の検査を行う実験プロトコールのため、新型コロナウイルス感染症の影響で中断を余儀なくされております。

岡留らは頭蓋内脳波記録を用いて、発作間欠期てんかん性放電(IED)が正常脳機能に関わるネットワークに与える影響を解析し、国内・国際学会で発表を予定し、投稿準備も行っています。また、IEDが手続き記憶課題成績に与える実験も併せて行っています。

山口らはIEDが惹起する睡眠紡錘波に着目し、頭蓋内外脳波の同時記録を解析し、てんかん診断へ応用する手法の開発を行っています。

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E.脳血管障害

田中は、TRPV4ノックアウトマウスと野生型マウスで脳虚血再灌流モデルを作成し、TRPV4ノックアウトマウスでは野生型マウスと比較して梗塞体積や浮腫が軽減され、血液脳関門の機能やその構成蛋白が保持されることを発見した。脳虚血再灌流においてTRPV4を抑制することが新たな治療ターゲットとなりうると考えられ、結果を論文報告した(Tanaka K, et al, Front Neurosci 2020)。

田中は、昨今のCOVID-19流行に伴う急性期虚血性脳卒中症例の臨床的特徴の変化を調べるために済生会福岡総合病院、福岡市民病院、小倉記念病院において2019年4月から2020年3月までをCOVID-19流行前期、2020年4月から10月までをCOVID-19流行期として同期間に入院した発症7日以内の急性期虚血性脳卒中症例を対象に多施設共同後ろ向き観察研究を行い、結果を解析中である。

松本、吉良らが産業技術大学院大学小山裕司研究室と共同開発した脳梗塞急性期治療支援システム「Task Calc. Stroke(タスカルストローク)」は、藤田医科大学にてシステムのバージョンアップが行われ、藤田医科大学病院での運用の継続を行いつつ、新たに、脳卒中受け入れ病院を対象とした多施設共同研究を開始予定である。

松本、古田、田中らは、待機的脳血管内治療におけるクロピドグレルの反応性に関する研究を行い、結果を論文投稿中である。

古田が2021年2月より小倉記念病院から村上華林堂病院へ異動している。橋本が2021年3月に米国より帰福し、4月より小倉記念病院へ勤務している。田中は2021年4月よりカナダへ渡航し、5月よりカルガリー大学へ留学の予定である。

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F.神経感染症

松下は、厚生労働省の指定研究 「プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究」の研究分担者として2020年度九州・山口地区のサーベイランス業務を遂行した。今後も九州・山口・沖縄 の計9県におけるプリオン病の発生動向の監視を継続する。患者発生の情報は、特定疾患臨床調査個人票、感染症法に基づく発生届、プリオン病関連検査機関(プリオン蛋白遺伝子検査、髄液14-3-3蛋白検査)などによりもたらされる。これらの情報をもとに、疑い例を含む全ての患者の実地調査、資料調査を行っている。2021年1月18日には令和2年度合同研究報告会において「九州・山口・沖縄地区のP102LとV180I変異の頻度と 発症年齢の分布」の演題名で、同地区でのP102L変異プリオン病の発症年齢が二峰性であることを報告し、発症年齢別の臨床的特徴について報告した。

G.筋疾患

020年度は、12件の筋生検を施行した。遺伝性疾患ではCPEO、ジスフェルリノパチーをそれぞれ1例ずつ経験した。2例で封入体筋炎の診断に至り、そのうち一例は抗NT5C1A抗体が陽性であった(熊本大学脳神経内科にてcell-based assayで測定)。(H.O.)

H.神経免疫基礎(山﨑、斎藤、永田、田中(栄)、Ezgi、中牟田、松尾)

永田はDMARDsの一種であるIguratimodの中枢炎症抑制効果をオリゴデンドログリア特異的Cx47欠損(Cx47icKO)マウス脳脊髄炎モデルを用いて解析している。Iguratimod(ケアラム、コルベット)は市販されている抗リウマチ薬で、日本国内で開発され、2012年に製造販売承認された薬剤。NFkB活性化抑制を介して末梢免疫抑制作用をもたらすが、中枢グリア炎症への作用は不明である。私達のCx47icKOマウスEAEはT細胞浸潤促進とグリア炎症の悪化によるEAE症状増悪が特徴であるが、Iguはグリア炎症抑制を介してCx47icKOマウスEAEを抑制した。現在Iguの細胞浸潤抑制作用をin vitro血液脳関門モデルを用いて解析中。Ezgiはコネキシンヘミチャンネル阻害薬INI-0602によるグリア炎症抑制を介したEAEマウス治療を行っている。INIはアストログリアのCaシグナリング抑制を介したヘミチャンネル発現阻害によるグリア炎症抑制作用を発揮することが明らかとなった。

I.その他の神経免疫疾患

斎藤・山﨑らは気管支喘息モデルマウスを用いて、①母親と新生仔を同時にへアレルゲン(OVA: 卵白アレルゲン)へ曝露した系、②新生仔単独でOVAへ曝露した系の2系統を対象に、生後早期のアレルゲン曝露が中枢神経系へどのような影響を及ぼすかを検討した。その結果、2系統ともに新生期OVA曝露により行動解析にて社交性低下など自閉症様の行動異常がみられ、免疫染色、ウェスタンブロット等でグルタミン酸受容体などの後シナプスマーカー、ミクログリアの発現に異常を生じることを見出した。興味深いことに、異常行動の程度は、喘息炎症(BALF中の好酸球浸潤等)の重症度とは有意な相関を示さず、さらに仔単独で曝露した場合よりも母親と同時に曝露した場合に異常行動は増悪した。また、母体と仔を同時に曝露した系では、仔の腹腔内感作を必要とせず、ヒトにより近いモデルを確立した点は特筆に値する。さらに、当院呼吸器科との共同研究のもと、異なる曝露の方法(点鼻・吸入)で共通した異常行動が起こることを確認した。以上より、アレルギーによる自閉症様行動の喚起には、アレルギー性炎症の程度に依存せず、母体因子がより重要である可能性が示唆された。上記の結果をもとに新生仔単独暴露の系については論文発表を行い(Saitoh et al., Brain, Behav, and Immun. 2021)、母仔同時暴露の系については引き続き母体の炎症性サイトカインや母乳の関与、またそれによって生じる腸内細菌叢の変化などが上記の病態の原因である可能性を考え、さらなる解析を検討している。

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J.高次脳機能障害学

山下はアルツハイマー型認知症の患者さんで安静時機能的MRIを撮像し、Default Mode Network (DMN)の機能障害度による薬剤反応性の相違を確認する実験を放射線科と共同で行っています。抗認知症薬が有効なAD群では無効群と比較して、背側注意ネットワークと腹側注意ネットワークの機能的結合が減弱することを見出し学会発表しました。

K.末梢神経学・自律神経学

当科は国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)の助成により行われた研究課題名「抗Neurofascin155抗体陽性慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診断基準・治療ガイドライン作成のためのエビデンスの創出」に分担施設として参画した。緒方、山﨑らは、継続的に抗NF155抗体、抗CNTN1抗体の測定を行い、2021年4月までに、研究班全体ではIgG4抗NF155抗体陽性慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)症例を117例、IgG4抗CNTN1抗体陽性CIDPを7例同定している。2020年度は、IgG4抗NF155抗体陽性CIDP症例は高率に潜在的な脳神経障害を合併することを画像的、電気生理学的に同定し、報告した(Ogata H, et al. Ann Clin Transl Neurol 2020)。IgG4抗CNTN1抗体陽性CIDPにおいても症例の蓄積が進むにつれ、新たな臨床像が明らかになりつつある。

現在、企業と共同でIgG4抗NF155抗体、IgG4抗CNTN1抗体測定キットの開発を行っており、2020年度は臨床性能試験のためのプロトコールを作成し、医薬品医療機器総合機構に対面助言を受けた。今後は体外診断薬として承認を得ることを目指していく。

また、難病プラットフォームと連携し、IgG4自己抗体陽性CIDPのレジストリ構築のための登録システムを構築した。2021年度に運用開始し、前向きに質の高いデータを収集していく。

昨年度に引き続き、医師主導治験「IgG4自己抗体陽性の慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)患者を対象としたリツキシマブの有効性と安全性評価に関する多施設共同臨床試験(責任研究者 名古屋大学医学部付属病院 飯島 正博)」の治験分担施設として参画し、4例を組み入れ、そのうち3例はプロトコールを完遂した。

藤井・宮地・飯沼・山﨑らは、痛覚伝導路のC 線維型小径後根神経節(DRG)ニューロンや副交感神経節後C 線維に特異的に結合し、神経障害性疼痛と自律神経障害を呈する抗Plexin D1抗体の測定系の確立と病態メカニズムの解明を行っている。2020年度は、抗Plexin D1抗体がDRGニューロンのみでなく、三叉神経節の小径ニューロンにも結合することを発見し、原因不明の有痛性三叉神経ニューロパチー患者の14.3%で抗Plexin D1抗体が陽性であることを明らかにした(Fujii T, et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2020.)。さらに、抗Plexin D1抗体の測定系としてELISAを開発し、そのELISAを用いて、日本と韓国の小径線維ニューロパチー患者における抗Plexin D1抗体の保有率を調べたところ、小径線維ニューロパチー患者の12.7%で抗Plexin D1抗体が陽性であったことを報告した(Fujii T, et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. in press.)。また、抗Plexin D1抗体の神経障害性疼痛に対する病原性を評価するために、マウスの髄腔内に患者血清中の抗Plexin D1抗体を投与して受動免疫モデルマウスを作成し、行動実験ならびに病理学的検討を実施した。結果、患者由来の抗Plexin D1抗体をマウス髄腔内に投与した受動免疫モデルマウスでは、健常人由来のIgG を投与したマウスと比較して、有意に熱性痛覚過敏と機械性痛覚過敏を認めた。さらに、病理学的解析では、受動免疫動物の小径DRG ニューロンにおいて、有意なリン酸化ERK(Extracellular Signal-regulated Kinase)の活性化を認め、抗Plexin D1抗体が小径DRG ニューロンに結合し、DRG ニューロンにおけるERK 経路の活性化を通じて、神経障害性疼痛を惹起していると考えられた(Fujii T, et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. in press.)。そして、これらの研究をまとめて、日本自律神経学会の学会誌である『自律神経』にmini reviewとして報告した(藤井ら.自律神経.2021.)。現在、Plexinならびに、PlexinのリガンドであるSemaphorinが神経障害性疼痛発症にどのように関わっているかの解析を進めている。

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